通販生活

 スパルタ農法というものがあります。トマトの苗に水を遣らず、敢えて極限に近い状態で栽培していると、水を求めたトマトは、その表面に小さな産毛をびっしり生やし、朝の空気に含まれるわずかな水分をそこに蓄え吸収し、生命力のみなぎる甘い実をつけるのだそうです。
 私もその方針でやってます。何ってお肌の話です。甘やかすことをせず、暑さ寒さの中に敢えて素肌をさらして*1新陳代謝機能を刺激し促進させる手法です。
 まぁ、ぶっちゃけ単なる放任なんですけども。
 しかしまぁ齢重ねて三十路になると、いまさら「お化粧初心者です♪」なんて言って、おてもやんメイクで出撃するなんてもはや許されるわけもなく。このまま一生ノーメイクで過ごすしかないやねあははヽ(゚∀゚)ノっていう状況です。別に不自由はありません。
 そんな私に突然、彼氏くんが化粧品のトライアルセットを差し出しました。
 「ちょっと。一緒に試してみてレビュー書こうぜ」
 注)モノを売る仕事に転職する彼氏くんに対して「通販でたくさん買い物をしてそのレビューを書け」という宿題が上から出されているのです。
 普通の買い物については、現在リストを提出しお財布様(笑)の承認を受けているところなんですけど、「無料お試しセット」については幾ら先走って頼んでもこちらのハラは痛まないので、ガンガン送ってもらおうぜ!っていう寸法なのです。

 で。化粧品。
 ・・・しかし。レビューも何も比較のしようがないからねぇ(汗。
 「いやいや。商品云々もあるけど、取説がわかりやすいとか、使い勝手がどうとか、そういうのを確かめないとね」
 ってことで。二人で洗面所に並び、化粧もしてないのにクレンジングで顔を洗い、ぬるま湯を使ってよく泡立てた何か(笑)で「Tゾーン!」「コバナ!コバナ!」と呪文を唱えながらマッサージ。さらに「お肌のための特別プログラム」とかいう、妙に粘度の高い白い物体を「ヽ(゚∀゚)ノキャッキャッヽ(゚∀゚)ノ」と騒ぎながら顔に塗りたくり、「なにこれ白塗り〜」「歌舞伎役者みてぇ〜」などと浮かれては鏡の前でポーズ決めたり写真撮って笑い転げたりしてました。超おもしろかった。
 しかしまぁ、何と言ってもたかが肌の上に塗る程度のもんですよ。そりゃあ毎日使い続けていれば違いもあるでしょうけれど、たった一日、15分ぐらい遊んだところで、たとえどんなに高級で贅沢な成分を大量に配合していても、表皮が吸収できるものなんてタカが知れてますし、正直「こんな小さなお試しパックぐらいで『これはいいわ!これ頂戴!」なんて言う人いるのかな。商売成り立つのかな。日ごろあれこれ使ってる人には違いがわかるんかな」って思ってたんですけど・・・。
 ICレコーダーをオンにして「今回の商品は○○です。どうでしたか」「いやぁ、クリームが白かったですねぇ」なんていうおかしなテンションでレビュー開始。
 「それでは気になるお肌の状態ですが、どんな感じですか」
 「そうですねぇ・・・・・・ぬおーぅ!!ナニコレ!」
 「なんだ、どうした!?」
 なんかね、すごいの。仕上げにローションをパッティングした所為かもしれませんけど、肌本体がすっげぇ瑞々しいの。史上に類を見ないぐらい瑞々しいの。でもって、その潤いの中にある肌が、なぜかさらさらっとしてるの。メチャクチャさわり心地が良いの。
 もうね、これなら天下取れると思った。それぐらいすごかった。
 このお肌が恒常的に私のものになるならば・・・!と思わず商品カタログに手を伸ばしました。スキンケアを知らない原人が初めてその文化に触れた、貴重な瞬間です。ここにお金と時間を費やすことの意義が、ようやくわかりました。
 わかりました、が。
 途中でパンフ見るのをやめました。あははムリムリ〜。どれぐらい無理かって言うと、もしも自分がサラリーマンで、主婦やってる妻がこのセット(トライアルに入ってたスキンケアのセットのみ。)を買ってたら、泣きながら離縁してもらうくらいです。だって生活に支障が出るもん、甲斐性のない夫でごめん。
「ってことは、もらったローションでも1000円分ぐらい入ってるってことか」と彼氏くん。マジですかこんな小さな容器なのに。
 どんな人が買うんだろうね・・・としみじみしました。ま、何にしろスキンケア原人にはレベル高すぎ。
 そんなわけで、今日は何かと頬杖をついては、そのさわり心地にニヤニヤしています。何でも試してみるもんですね。お肌の曲がり角を過ぎたら、そろそろスパルタ農法とか言ってる場合でもないようです。

*1:日焼け止めぐらいはかろうじて使用。