妄想

 近所の電柱に「コスプレしゃぶしゃぶ食べ放題!」っていうチラシが貼り付けられまくっております。それを見て、ちょっと妄想してみた。

 その日、俺は「コスプレしゃぶしゃぶ」の店を目指して歩いていた。俺はコスプレ好き・・・ていうかセーラー服好きだった。セーラー服至上主義だ。にも関わらず、中学時代の制服はブレザーで、高校にいたっては男子校だった。頼みの綱だった近くの女子校は、俺が入学した年から私服通学を解禁しやがった。ちょっと遠くの共学の生徒はセーラーだったが、スカートの下にジャージを履くという異文化を守っていた。それは逆にセーラー服に対する侮辱だ。
 大学に入って都会に出てきたが、その頃にはもう、セーラー服の女子高生を見つめるだけで「変態」のレッテルを貼られるオッサンになっていた。セーラー服至上主義の俺は、そんな訳で、学生時代をセーラー服とは無縁ですごしてきたのだ。


 そんな俺に一筋の光を与えてきたのが、例の「コスプレしゃぶしゃぶ食べ放題!」のチラシだ。そんな店ならば穴のあくほどセーラー服を見つめたって、誰も文句は言うまい。「ホンモノの女子高生じゃない」なんてことはどうでもいい、今の俺は誰にも止められない!


 扉をくぐり、薄暗い店内に入った。期待していた「いらっしゃいませ〜」という黄色い声はない。ちょっと残念だ。店内に居たのは辛気臭い中年が一人。すっごく残念だ。ここはコスプレしゃぶしゃぶの店ではないのか?
 「お一人さまですか?」と辛気臭い中年は俺をテーブルに案内した。「コスプレしゃぶしゃぶ食べ放題コースですね?」間違ってはいないようだ。しかし、この雰囲気ではレベルも知れようというものである。


 「当店は初めてでございますか? まず衣装をお選びください」 中年はメニューのようなファイルを差し出した。開いてみると、いろんな制服の写真が載せられている。スチュワーデス、婦人警官、ナース、女医、OL、もちろんセーラー服もかなりの点数が紹介されている。なるほど、客がコスチュームを選べるというシステムか。俺はちょっと機嫌を直した。通勤電車で見かける有名女子校風のセーラーが良い、あぁでも、高校時代に遊び倒したエロゲのデザインモデルも捨てがたい。オーソドックスな田舎丸出しのデザインも、これはこれで抑えておきたいところである。これは何点選べるんだろうか。


 と、そのとき。店内の奥にあったカーテンが勢いよく開かれた。
 「あー! 生き返る生き返る! やっぱりこの格好が落ち着くよ!」
 「落ち着くのは良いけどガニマタで歩くのはやめたまえよキムラくん」
 「ちょっとミヤケくん、ボクのナース帽、ちゃんとついてるかどうか見てくれよ」


 そこから出てきたのは、ナース服、ボディコンワンピ、そしてあろうことかセーラー服に身をつつんだオヤジ3人だった。
 「しかしココは天国だね。こんなに堂々とスカートがはけるなんてシアワセだよ」
 「ココを見つけるまでは、ムスメの服に手を出すか出さないかって悩んで、人として最底辺だって死のうかとも考えたからなぁ」
 「しかも同好の士を見つけることが出来て、こんなに嬉しいことはない」
 異形のオヤジたちがテーブル席につきしゃぶしゃぶ鍋に取り組むのを、俺は呆然と見つめていた。何が起こっているのか理解できない。

 「お客様、衣装はお決まりですか?」と、店員の中年が声をかけてきた。衣装? 衣装を決めるって何だ? その声に、コスプレ中年の一人が気づいた。「キミ、初めて見る顔だね。良かったら一緒に食べないか?」「キミは何を着るんだい? ほう、セーラー服かぁ。このAZ-002番はいいよね、僕もよく着るんだよ」


 そのとき店の扉が開き、恰幅の良い中年が入ってきた。
 「おう、こんばんはキムラくんミヤケくんヤナミくん。似合ってるね」
 「あ、コイケさん。待ってたんですよ〜。メイクのやり方教えてくださいよ」
 「はっはっは。先に着替えてくるから待ってなさい。・・・おや、新人かい?」


 俺はコイケさんとやらに引きずられるようにして店の奥へと連れていかれた。その後のことは、あんまり覚えていない。

 妄想長いよ。